らんのものおき

和訳とか、映画の感想とか、舞台の感想とか。

Mozart, l’opéra rock 第ニ幕(台詞部分のみ和訳)

※これは2010年版収録映像の字幕を訳したものです。その他のバージョンとは台詞が異なる場合があります。

 

【開幕・ザルツブルク
(レオポルト)
本当に出て行くのか?

(モーツァルト)
ああ、父さん。ウィーンでなら僕はやっと音楽家達の中で暮らしていける。サロンで演奏したり、宮廷で作曲をしたり!

(レオポルト)
ヴォルフガング、お前は一人じゃ何もできない。
コロレドの言う通り皇帝の戴冠式に出席しろ。忘れるんじゃないぞ。我慢してコロレドに従いなさい。

(モーツァルト)
でも父さん、ウィーンは僕にとってチャンスなんだ。

(レオポルト)
チャンスだと?今までも散々チャンスを与えてやったのに、お前は全て無駄にしたじゃないか。
旅にも出して、色んな人に会わせて、だが無駄だった。
それに母さんだって。お前は母さんを見殺しにしたんだ!

(モーツァルト)
違う!

(レオポルト)
お前のせいで死んだんだ。彼女は私の一部だったのに。

(モーツァルト)
父さん。僕はずっと父さんに認められようと努力してきた。
失望させたなら悪かったよ。
だけどもう言いなりにはならない。

(レオポルト)
ヴォルフガング

(モーツァルト)
この3年間ずっとあの暴君にこき使われてきた。

(レオポルト)
ヴォルフガング!

(モーツァルト)
もううんざりだ!
僕はウィーンに行く。これは僕と、僕の音楽のためだ。

(コロレド)
待て、モーツァルト
たとえウィーンでも、私の王室以外で演奏することは許さない。

(モーツァルト)
陛下!どうかお許しを!

(コロレド)
キッチンに戻れ。使用人達のいる所、そこがお前の居場所だ。

(使用人達)
さあ大先生、どうぞお掛けください。
ディナーの時間ですよ。
何かご不満で?
楽家は繊細だからな
これを飲むんだ!我々のために!さあ!

Comédie-tragédie (The Clown)

(モーツァルト)
やめろ!
この卑しい腐れ大司教
よく見るがいい、これが最後だ。
僕、ヴォルフガング・アマデウスモーツァルトは、今夜辞職する!
聞こえたか?僕は自由だ!自由なんだ!

Place je passe (Wolfgang Amadeus Mozart)

【ウィーン宮廷】
(ローゼンベルグ)
ドイツ語のオペラだなんて本当か、ステファニー?
馬鹿馬鹿しい!

(ステファニー)
ローゼンベルグ、私はただ事実を伝えただけで...

(ローゼンベルグ)
けしからん!
スラム出身の歌手にでも歌わせるつもりか?宮廷劇場だぞ!
聞いたかサリエリ?ドイツ語のオペラだなんて、きっとこんなだぞ
〈Tatoue-moiのメロディをテキトウなドイツ語で歌う〉
いや、これは特に意味はないんだけど

(案内人)
オーストリア皇帝、ヨーゼフ2世のお出ましだ。我が国の偉大なる...

(ヨーゼフ2世)
もういい、もういい、ご苦労。
皆さんご機嫌よう。

(ローゼンベルグ)
陛下!
ヨーゼフ2世のブランケットの下から女性が出てくる〉
あらお嬢さん

(ヨーゼフ2世)
さあ、話を聞こう

(ローゼンベルグ)
はい陛下。こちらはステファニー、陛下に依頼されたオペラの脚本を担当しております。ほら、お見せして。

(ステファニー)
はい陛下、お納めください

(ローゼンベルグ)
さがって、さがって

(ヨーゼフ2世)
後宮からの誘拐』だって?

(ステファニー)
はい陛下

(ヨーゼフ2世)
面白いタイトルじゃないか!

(ステファニー)
陛下、それはそれは楽しいお話ですよ。

(ヨーゼフ2世)
良いじゃないか。それで、曲は誰がつけるんだ?

(ステファニー)
ヴォルフガング・モーツァルトが良いかと。
ウィーンで話題の若くて才能ある作曲家です。
もう今はどこに行っても皆んなモーツァルトモーツァルトと...

(ローゼンベルグ)
ドイツ語でオペラを書くんだとか言ってる馬鹿な若造ですよ

(ステファニー)
そう、彼はドイツ語のオペラを書くと!
どうかご検討ください陛下。

(ヨーゼフ2世)
サリエリ、君はどう思う?

(サリエリ)
馬鹿ですがたしかに才能はあります。

(ローゼンベルグ)
サリエリ

(サリエリ)
しかしまだ若く経験が浅いので、そこは考慮したほうがよろしいかと

(ヨーゼフ2世)
決めた!モーツァルトに作曲を任せよう!
皆ご苦労だった!
ローゼンベルグ、この件は君に任せたぞ。

(ローゼンベルグ)
はい陛下

(ヨーゼフ2世)
頼りにしてるからな〜

(ローゼンベルグ)
分かりました

(ヨーゼフ2世)
さあ、初演の準備だ!

(ステファニー)
〈『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』のメロディで歌いながら〉モーツァルトに決まりだ〜 モーツァルトに決まりだ〜

(ローゼンベルグ)
気は済んだか?
いつまで歌ってるつもりだ?もしもし?

(ステファニー)
あ、ごめんなさい、終わりました終わりました!

ウェーバーの宿屋】
(セシリア)
ヨゼーファ、2階のシーツを替えてくれない?

(ヨゼーファ)
はいお母さん

(セシリア)
コンスタンツェ?...コンスタンツェ!

(コンスタンツェ)
はーいお母さん!

(セシリア)
ホーファーさんのシャツは用意できたの?

(コンスタンツェ)
今やってるとこ!

(セシリア)
急いで!待たせてるんだから!
ええと、2、4、6、8... 数は合ってるわね。
シャツは持ってきた?

(コンスタンツェ)
はいどうぞ!

(セシリア)
さあ行った行った、さっさと出てって。
コンスタンツェ、何やってるの?
仕事が山ほどあるんだから。

(コンスタンツェ)
もう十分働いてるでしょ?
私は召使いじゃないんだから。
誰か雇えばいいでしょ!

(セシリア)
そんな金がどこにあるって言うの?
本当に馬鹿なんだから。
父さんは死んで、アロイジアは結婚して歌をやめちまったんだから、私は死ぬまで宿屋で働き詰めだよ。
なのにあんたはなんだい?
すぐ疲れたとか言って休むんだから!ちょっとは考えなさいよ!

Si je défaille (Constanze)

(ゾフィー)
ねえ、ヴォルフガングよ!
来てくれたの!

(セシリア)
あらヴォルフガングじゃない!
私達から逃げてったのを後悔してるんじゃない?マンハイムで私達を捨てたことをさ。

(モーツァルト)
それはもう!後悔してますよ!

(セシリア)
言い忘れてたけど、アロイジアは結婚して有名になって、今は絶好調よ。もうすぐ子供も産まれるの。

(モーツァルト)
子供が?

(セシリア)
ええ。それで私達には何の御用?

(モーツァルト)
えっと、部屋を借りたいんです

(セシリア)
いいわよ、でも勘違いしないでよね。
うちには娘がまだ3人いるけど、アロイジアの代わりを探そうなんて思っちゃダメよ。
それから、あんたは私のタイプじゃないから。

(ゾフィー)
聞いたわよ!

(ヨゼーファ)
コロレドのところから出てきたんですって!?

(ゾフィー)
しかも皇帝からオペラを依頼されたんですって!?

(ヨゼーファ)
それにまだ結婚してないのね!

(ゾフィー)
それに...

(コンスタンツェ)
ちょっと!少しは休ませてあげてよ!
...顔色が悪いんじゃない?

(モーツァルト)
そう?

(コンスタンツェ)
私が面倒見てあげる

Si je défaille (Sophie and Josepha)

【リハーサル会場】
(ローゼンベルグ)
急げステファニー

(ステファニー)
楽しみですね

(ローゼンベルグ)
まったく退屈だよ

(ステファニー)
ちょっとだけ見てきてもいいです?

(ローゼンベルグ)
何を見るって言うんだ?まだリハーサルは始まってないんだぞ。

(ステファニー)
そうですけど...

(ローゼンベルグ)
モーツァルトはまだ来てないのか?奴はどこにいるんだ?

(ステファニー)
まだ来てないですけど...

(ローゼンベルグ)
はやく行け!お前といるとイライラする!
〈リハーサル会場で騒ぐモーツァルト
おい嘘だろ... サリエリ、これは見ない方がいいぞ。
やっぱり後で来れば良かった。

(サリエリ)
ステファニー

(ステファニー)
はい

(サリエリ)
モーツァルトはどこだ?

(モーツァルト)
コンスタンツェ!キスしてくれるって言ったじゃないか!

(コンスタンツェ)
捕まえてみなさい!

(カヴァリエリ)
モーツァルト!準備できたわよ!
待ってるんだけど!

(モーツァルト)
分かったよ、カヴァリエリ。
そんなに僕のことを待ってくれてるなんて!

(ステファニー)
あのすみません...

(モーツァルト)
よし!始めよう!

(ローゼンベルグ)
はやくしろ!

(モーツァルト)
さて、10番のアリアから始めようか。

(サリエリ)
モーツァルト。ローゼンベルグと私は皇帝の命令で視察に来た。ここで君の能力を判断するようにと。
だが見たところ、陛下はこの件を考え直すだろうな。

(ローゼンベルグ)
どうも!

(モーツァルト)
曲も聴かずにどうやって判断するって言うんだ?

(ローゼンベルグ)
曲か、曲ねぇ、君の曲は音が多すぎるんだよ!
あんなんじゃオーケストラが演奏できないだろ?あ?あ?あ?

(モーツァルト)
音が多すぎるって?

(ローゼンベルグ)
そう言ったんだ

(モーツァルト)
そんな馬鹿な、決めつけだ!

(ローゼンベルグ)
もう頭にきたぞ。我慢できない。
サリエリ、あとは頼んだ!

(サリエリ)
お見事、第一印象は完璧だな。
君の音楽がその自信に値するものであることを祈るよ。

(モーツァルト)
待ってくれ、サリエリ
君は音楽家だね?
あげるよ、僕には必要ない。

〈『後宮からの誘拐』から10番のアリアの演奏が始まる〉

Le bien qui fait mal (Antonio Salieri)

(モーツァルト)
大先生、音が多すぎるって?

(サリエリ)
モーツァルト、私の助言を聞きたまえ。
身の程をわきまえろ。
君とは良い関係でいたい。

(モーツァルト)
コンスタンツェ!

(コンスタンツェ)
ヴォルフィー!

(モーツァルト)
コンスタンツェ!もうキスしていい?

(コンスタンツェ)
いいよっ!

(セシリア)
この悪党が!

(コンスタンツェ)
お母さん!

(セシリア)
この馬鹿娘が!はっきり見たからね!
なんてはしたない!

(モーツァルト)
セシリア、いやお母さん、いやご夫人!
それは誤解です!

(セシリア)
本当かい?誓うね?
ヴォルフガング、あんたはうちの恥晒しだよ!
人様の前であんなはしたないことをして!
ウィーン中の恥だよ!
今までの苦労が全部水の泡だ。
可哀想なコンスタンツェ。
死んだ父さんが見たらなんて言うか...

(コンスタンツェ)
お母さん、そんな!

(セシリア)
うるさいね!どっか行っちまいな!

(コンスタンツェ)
嫌だね!

(セシリア)
この厄介者が!

(コンスタンツェ)
ヴォルフガング!

(モーツァルト)
僕がいなくなれば良いんだろ

(コンスタンツェの義父)
待て小僧、そう簡単に逃げられると思うなよ!

(モーツァルト)
逃げるですって?

(コンスタンツェの義父)
逃げたら警察を呼ぶからな!

(モーツァルト)
警察?そんな!誰なんですかあなたは!

(コンスタンツェの義父)
私は、この子の保護者だよ!

(セシリア)
あなた、来てくれてありがとう

(コンスタンツェの義父)
この家族の恥はどうにかしなくちゃならんぞ。

(モーツァルト)
どうしろって言うんですか

(コンスタンツェの義父)
これにサインしろ。
結婚契約書だ。

(モーツァルト)
結婚契約書!?
でも父さんが何て言うか!

(セシリア)
この詐欺師め!また父親を言い訳にするのか!

(コンスタンツェの義父)
うちのコンスタンツェ・ウェーバーと3年以内に婚約するんだ。さもないと300フローリンの罰金をセシリアに支払うことになる。

(モーツァルト)
そんな!

(セシリア)
ああ、そうね。それがいいわ。

(コンスタンツェの義父)
分かったか?

(モーツァルト)
これがあんたの罠だってことは分かったよ!
奥さん、どうぞよろしくお願いします。

(コンスタンツェの義父)
さあモーツァルト、サインするんだ
モーツァルト、契約書にサインする〉

ザルツブルク
(ナンネル)
お父さん!大ニュースよ!「皇帝陛下の依頼により、モーツァルトはオペラ『後宮からの誘拐』のリハーサルを始めました。この作品はきっとウィーン中から大喝采を受けるでしょう」ですって。
お父さん、ヴォルフガングはこれで有名になれる!
...どうかした?

(レオポルト)
ヴォルフガングがコンスタンツェ・ウェーバーとの結婚の許可を求めてきた。
アロイジアの妹だよ、あの邪悪な家族の罠にハマってまた道を踏み誤ったんだ。
だが私が生きている限り絶対に結婚なんかさせないぞ!

(ナンネル)
どうして?コンスタンツェはきっと良い人よ。
ヴォルフガングか彼女を愛してるなら、どうして彼らの幸せを願ってあげないの?

Les solos sous les draps (Constanze, Nannerl and Leopold)

〈ウィーン〉
(モーツァルト)
コンスタンツェ、なんてことをしてくれたんだ。
君があの母親の手先だったなんて

(コンスタンツェ)
私を疑うの?

(モーツァルト)
今は誰も信じられないよ

(コンスタンツェ)
ヴォルフガング、私はあなたを愛してる。世界中の誰よりも!
あなたがいつか私と結婚してくれるなら、あんな契約書なんていらない。

(モーツァルト)
それだけじゃだめなんだ

(コンスタンツェ)
これ、何だか分かる?
今朝お母さんから盗んできたの。
これが私の気持ち。
〈コンスタンツェ、契約書を破り捨てる〉

(モーツァルト)
コンスタンツェ・ウェーバー、僕と結婚してくれませんか?

Les solos sous les draps (Constanze, Nannerl and Leopold)

(ローゼンベルグ)
はやく片付けろ、まったく馬鹿馬鹿しい。
分かってる分かってる、奴になんか任せるべきじゃなかった。
モーツァルトの新作オペラは今夜が初演だ。
あの厄介者の音楽をウィーン中が待ち侘びてる。一大イベントだよ。
まったくサリエリも馬鹿だね、あいつも何も分かってない。
「ローゼンベ〜〜ルグ、奴の音楽で宮廷中が混乱するぞ〜。そうなれば全て元通りだ〜」とか言って、本当アホなんだから。
でも本当に混乱が起こったら、民衆は大騒ぎじゃないか。
まったく意外だが、たしかに奴の音楽にも耳に残るフレーズはいくつかある。というか、まあ、正直素晴らしいよ。
特にあの序曲なんか。あれには不思議な魅力がある。
聴いてくれ、こんな感じだ。
〈『後宮からの誘拐』から序曲を歌うローゼンベルグ、そこにサリエリ登場〉

(ローゼンベルグ)
わぁ!!!
サリエリじゃないか!
脅かさないでくれよサリエリ

(サリエリ)
なあ、ローゼンベ〜〜ルグ
そんなにモーツァルトの音楽が好きなのか?

(ローゼンベルグ)
まさか!まさか!逆だよ!
あれは罵る意味で歌ってただけだ!

(サリエリ)
罵る意味でねえ

(ローゼンベルグ)
そう!あまりに腹立たしくて!

(サリエリ)
腹立たしくてねぇ

(ローゼンベルグ)
そうそう!
それに、今夜は『後宮からの誘拐』の初演だろ。
モーツァルトが成功するのは許せない。
そこでだ、皇帝の前の座席に私の友人に座ってもらうことにした。
上演中そいつらにオペラを非難させるんだ。

(サリエリ)
ではそうしたまえ

(ローゼンベルグ)
はいもちろん!

【サロン】
(客人)
あぁ楽しかった、本当に良かったよ
ねえちょっと皆んな聞いて
モーツァルト!あなたのオペラは本当に素晴らしかったわ!

(モーツァルト)
ありがとう!ありがとう!

(客人)
ローゼンベルグサリエリが顔真っ赤にしてたな

(コンスタンツェ)
本当に誇りに思うよ

(ステファニー)
さあ皆んなで成功のお祝いだ!

(客人)
君の演技も素晴らしかったよ

(ダ・ポンテ)
すみません、すみません!
モーツァルトとお話ししたいのですが

(モーツァルト)
僕がそうです

(ダ・ポンテ)
私はロレンツォ・ダ・ポンテ。宮廷で作家と詩人をしている。

(モーツァルト)
ロレンツォ・ダ・ポンテか。
知ってるぞ、サリエリの曲に詞をつけてる作家だな。
お会いできて光栄です。
それで、僕に何の用だ?

(ダ・ポンテ)
君の曲に詞をつけさせてほしい
だがタイミングが悪かったようだな
また明日来るとしよう

(モーツァルト)
いや、ダ・ポンテ、待ってくれ
皆んな、僕の音楽の才能が返り咲いたぞ!
先に行っててくれ、ディナーの準備はできてる
話を聞かせてくれ

(ダ・ポンテ)
ああ、君にちょっとした喜劇の台本を持って来たんだ。カルロ・ゴルドーニの台本だ。きっとウィーンで大成功する。

(モーツァルト)
もっと良いのがあるよ。
フィガロの結婚』だ

(ダ・ポンテ)
ボーマルシェの戯曲か。
だがウィーンでの上演は禁じられてる、君も知ってるだろう。

(モーツァルト)
ああ、だから君が説得してくれないか?

(ダ・ポンテ)
皇帝に直談判なんてできるわけないじゃないか。
彼は絶対に意見を変えようとしない。
それにフランスではこの戯曲が発端で事件まで起きたんだ。
今じゃ革命の噂がヨーロッパ中を駆け巡ってる。

(モーツァルト)
でもフィガロじゃなきゃ駄目なんだ

(ダ・ポンテ)
なら私なしでやってくれ。
従者が思想を説いて貴族を嘲る戯曲なんて、
観客はきっと顔をしかめるぞ。

(モーツァルト)
ダ・ポンテ!
僕はこの作品で革命を起こすつもりはない、人間の情熱を表現したいだけだ。
フィガロには心を揺さぶられる何かがある。
彼は自由を求めて抵抗する男なんだ。
君の才能と僕の音楽があればきっと成功する。
頼むよダ・ポンテ!お願いだ!

【宮廷劇場】
(案内人)
今夜、皇帝ヨーゼフ2世は宮廷劇場にて、ダ・ポンテとモーツァルトによる全4幕のオペラ『フィガロの結婚』のリハーサルをご覧になる。
〈無音でバレエを踊る人達〉

(ヨーゼフ2世)
どういうことだ?オーケストラはどうした?
誰か説明してくれ。
ダ・ポンテ、これはどういう意味だ?

(ダ・ポンテ)
私は陛下の意に従ったまでです

(ヨーゼフ2世)
私の?
もういい、やめたまえ

(モーツァルト)
ローゼンベルグがフィナーレのダンスシーンを削除したんです。
陛下は宮廷劇場でのバレエの上演を禁じられているとかで。

(ヨーゼフ2世)
ローゼンベルグ

(ローゼンベルグ)
はい陛下

(ヨーゼフ2世)
なんて馬鹿げたことをしてくれるんだ

(ローゼンベルグ)
陛下、私はただバレエの上演は許可しないという古き伝統に従っただけで

(ヨーゼフ2世)
なら新しい伝統を作ろうじゃないか。
私はバレエが観たいんだ。分かったか?
サリエリ、頼んだぞ。

(サリエリ)
しかし陛下、それは認めかねます

(ローゼンベルグ)
だがサリエリ

(ヨーゼフ2世)
もういい!
ローゼンベルグサリエリ、なんとかしろ!

(サリエリ)
モーツァルト

(モーツァルト)
はい?

(サリエリ)
フィナーレに音楽を戻したまえ

(モーツァルト)
ああ、そうするよ。
ありがとうサリエリ

(ローゼンベルグ)
何やってるんだ!気でも狂ったか?
計画が台無しじゃないか!

(サリエリ)
だがあのままじゃ私達2人ともまずかっただろ

(ローゼンベルグ)
それで皇帝の目の前でモーツァルトに負けを認めたわけか。
ほんと気が利くな。

(サリエリ)
分かってないな、ローゼンベルグ
モーツァルトはいずれ負ける。
フィガロは貴族階級を侮辱した作品だ。
きっと奴は怒りを買うぞ、すぐ大騒ぎになる。
よく聞くんだ、サロンで噂を広めろ。
出演者達の間で対立を起こすんだ。
必要なら買収しても構わない。
機が熟せば皇帝も自然と私達の意見を聞くようになるだろう。

(ローゼンベルグ)
たしかにな、その通りだ

(サリエリ)
信用して良いな?
行きたまえ
サリエリ、一人取り残される〉
だがたしかに、彼の音楽は、素晴らしい...

L'assasymphonie (Antonio Salieri)

【サロン】
(コンスタンツェ)
フィガロよ永遠なれ!
アロイジア?アロイジア!

(アロイジア)
コンスタンツェ!

Vive les noces de Figaro (Constanze and Aloysia)

(ローゼンベルグ)
フゥ〜!
私も仲間に入れてくれよ。
ちょっとしたニュースを持ってきたんだ。
フィガロの結婚』は打ち切りだ。
広告を下げたまえ。これは皇帝の命令だ。

(コンスタンツェ)
そんなの嘘に決まってる!
皇帝が彼をそんな風に裏切るわけない!

(アロイジア)
あなた、モーツァルトの悪い噂を広めてたの知ってるわよ!

(セシリア)
ヴォルフガングはウィーン1の作曲家なんだよ!

(客人)
そうだ!

(ローゼンベルグ)
何なんだこの酔っ払い女は。
今じゃモーツァルトは無名もいいとこだ。
明日には職も失うだろうな。
もはや誰にも必要とされない。
聞いたか?誰にも!誰にもだ!

モーツァルト宅】
(ダ・ポンテ)
モーツァルト、こんな終わり方じゃだめだ。
ドン・ジョヴァンニが地獄に引きずり込まれるなんて。
最後は高音で締めるんだから。
もっと明るい最後にしよう。
フィガロの結婚』での失敗を取り戻すんだ。
民衆の心を掴まなきゃ。

(モーツァルト)
民衆が何だ。
自分達の都合よく君を貶したり誉めたりする連中だろ。

(ダ・ポンテ)
気持ちは分かる。でもリハーサルは3ヶ月後なんだぞ。
まだ第1幕すら完成してないじゃないか。
ヴォルフガングどうかしたのか?
さっきから上の空だぞ。

(モーツァルト)
父さんが病気なんだ。
嫌な予感がする。

(ダ・ポンテ)
でも君に何ができるって言うんだ

(モーツァルト)
明日ザルツブルクへ発つよ。
姉さんと一緒に父さんの看病をする。

(ダ・ポンテ)
もう遅い。
過去に縋り付くのはよせ。

(モーツァルト)
なんてこと言うんだ!
僕の父さんだぞ!
僕に何もかもを授けてくれた父さんだ。

(ダ・ポンテ)
君の才能は別だろ。
頼むから仕事を続けてくれ。

(モーツァルト)
才能だって?
ダ・ポンテ、父さんは幼い僕に愛を教えてくれた。
愛と、人生を懸けた音楽への情熱を。

Dors mon ange (Nannerl)

(モーツァルト)
ダ・ポンテ、父さんが死んだよ

(仮面の男)
モーツァルト

(モーツァルト)
...何の用だ?

(仮面の男)
何も訊くな。
私はある男の遣いでここに来た。
君の才能を心から信頼している男だ。

(モーツァルト)
何が望みだ?

(仮面の男)
君に鎮魂歌の作曲を依頼したい

(モーツァルト)
レクイエムか。だけど誰のために?

(仮面の男)
それはお前には関係ない。
前金の100ダカットだ。残りは完成後に支払う。
最善を尽くしてくれ。
依頼主はとても耳の肥えたお方だ。

(コンスタンツェ)
100ダカットも!ヴォルフガング!
これで生活できる!

(モーツァルト)
いや、コンスタンツェ。
あいつはこの世の者じゃない。
あの世から終わりを告げに来たんだよ。

【ウィーン宮廷】
(ローゼンベルグ)
そしたら私の妻が言ったんだよ「あなたは素晴らしいわ」って。
もう笑っちゃうよ、本当に楽しいね。
さあ皆んな、祝杯を挙げよう。
私の友人であり偉大なる作曲家、アントニオ・サリエリがこの度、宮廷礼拝堂聖歌隊の楽長に任命された。

(貴族達)
おめでとう大先生!

Victime de ma victoire (Antonio Salieri)

モーツァルト宅】
(コンスタンツェ)
ヴォルフガング、風邪引いちゃうでしょ。

(モーツァルト)
大丈夫だ。
できたよ、聞いてくれ。
書くんだ。
ラクリモサ、涙の日。
はじめはニ短調、ディエス・イレの最後と同じだ。
そして3小節目から主旋律が始まる、記号はレガート。
ラ ファ レ レ ド
ここで希望の光が差し込むようにコーラスが入る。
シとドに本位記号。
全音階から半音階になる。
...もうだめだ
僕の音楽は天をも越えていく

(代筆者)
先生?

(噂話をする貴族達)
哀れなモーツァルト
奴はずっと家にいるらしいな。
どんどん不健康になって「死神がレクイエムの作曲を依頼しに来た」とか言っているらしい。自分の葬儀のためのレクイエムを作曲してるんだよ。
自分の葬儀のためのレクイエム?
そんな馬鹿げてる!
ダ・ポンテ、君もそう思うだろ?
モーツァルトのことを悪く言うのはやめてくれ。聞いている私まで辛くなる。

(モーツァルト)
コンスタンツェ...

(コンスタンツェ)
ヴォルフガング!

Requiem - Lacrimosa (Caterina Cavalieri)

(コンスタンツェ)
何しに来たの?
どこから入ってきたのよ!

(サリエリ)
ご主人が病気だと聞いたもので
何か手助けはできないかと

(コンスタンツェ)
できるわけないでしょ
私達にあんな酷いことしておいて!

(モーツァルト)
あぁ、サリエリ
元気だったかい?

(コンスタンツェ)
ヴォルフガング、起きちゃだめ。
寝てて。
お願いだから帰って。
今はそんな場合じゃないの分かるでしょ?
帰ってよ。

(モーツァルト)
サリエリ
サリエリ...
僕はきっとこのレクイエムを完成させられない

(サリエリ)
そんなことないさ、モーツァルト
きっと良くなるよ。

(モーツァルト)
いや、僕には分かるんだ。
死がもうすぐそこまで来てる。

(コンスタンツェ)
ヴォルフガング、そんなこと言っちゃだめ!
絶対に良くなるんだから!
医者を呼んでくる

(モーツァルト)
待って、コンスタンツェ。
その必要はないよ。
ジュースマイヤーを呼んできてくれ。
彼ならきっとこのレクイエムを完成させられる。
作曲に必要な物は全て机の上に揃ってるから。
お願いだ、行ってくれ。

Vivre à en crever (Wolfgang Amadeus Mozart and Antonio Salieri)

【閉幕】

Mozart, l’opéra rock 第一幕(台詞部分のみ和訳)

※これは2010年版収録映像の字幕を訳したものです。その他のバージョンとは台詞が異なる場合があります。

 

(バイオリニスト)
聴こえたか?彼が答えてくれた、彼だよ。ヴォルフガング・アマデウスモーツァルトだ。天の声を音楽によって伝える男。なんという才能だ。たった6歳でコンツェルトを作曲し、11歳でオペラを作曲。世界中を旅して周り、名声を手にした。今、17歳の彼はザルツブルク宮廷楽団の指揮者となり、夢と希望に溢れていた。だが、運命は突然にして変わってしまう。彼の雇い主である大司教が亡くなったのだ。そして、次に権力を手にしたのはコロレドという冷酷な男だった。

【開幕・ザルツブルク
(司祭)
ザルツブルクの皆さん。ジークムント大司教が天に召された。ヒエロニュムス・コロレドが新たに大司教となる。敬意を表したまえ

(コロレド)
レオポルト・モーツァルト、前へ。これは何のつもりだ?君の息子が休暇の許可を求めてきたぞ。君と2人で外国へ演奏の旅に出ると。17歳の自惚れた子供に宮廷での職を与えてやったのだ、こういうことは諦めるべきだろう

(レオポルト)
諦める?そんな!ではどうやって家族を養えと?

(コロレド)
それは君の問題だ

Penser l'impossible (Leopold and Nannerl)

(コロレド)
断る。休暇など認めない。それから、ザルツブルク国立劇場は閉鎖だ。よく聞け小僧、ドイツ語のオペラなんか忘れろ!これからは私の依頼だけに集中するのだ

(モーツァルト)
父さん、もう我慢できない、僕は旅に出る

(レオポルト)
旅に出るだと?そんな不可能だ。コロレドには休暇の依頼を断られてしまった。一緒には行けない

(モーツァルト)
なら一人で行くよ!

(レオポルト)
お前には無理だ!

(ナンネル)
父さん、話を聞いてあげて

(モーツァルト)
これは僕の人生だ!

(アンナ・マリア)
二人共もうやめて!
オポルト、どうしてもと言うなら、私が一緒に行くわ

(レオポルト)
何だと?お前が?今まで一度も旅したことないじゃないか

(アンナ・マリア)
何にでも初めてはあるわ

(ナンネル)
母さんの言う通りよ

(レオポルト)
ヴォルフガング、母さんと一緒に行きなさい。母さんをよろしく頼む、私にとって世界一大切な人だ。
それから、外国で早く仕事を見つけるんだ。忘れるな、職がない音楽家など放浪者と同じだ。ストリートパフォーマーだなんて笑い者だぞ

(モーツァルト)
父さん、ありがとう。ありがとう
きっと期待に応えてみせる。父さんのために世界一のオペラを書いてみせるよ。父さんも誇りに思う!

(部下)
モーツァルトザルツブルクを旅立ちました

(コロレド)
なんだと?あの父親と息子がか?

(部下)
いいえ、息子が母親を連れて旅に出ました

(コロレド)
そうか、それでどこへ向かった?

(部下)
マンハイムへ行くそうです

(コロレド)
ではマンハイムへ行け。陛下に伝えろ、奴に仕事を与えてはならないと。私の要求を断ったあとに他で仕事を見つけるなど許さん!

(部下)
承知致しました。宮廷で一番の音楽家を失いかねませんから。彼の作る音楽は本当に素晴らしい

(コロレド)
くたばってしまえ!あいつの音楽は嫌いだ

【宿屋】
La chanson de l'aubergiste (The Innkeeper)

(客人)
小さな天才がお出ましだ!
ほら、楽譜だ、最後に一曲弾いてくれよ!

(モーツァルト)
分かった!

(アンナ・マリア)
だめよ、ヴォルフガング!もう十分でしょ!

(モーツァルト)
でも母さん、僕のマンハイムでの初めての演奏会だ!お祝いをしなきゃ!

(客人)
そうだ!モーツァルトの音楽よ永遠なれ!

(客人達)
そうだ!

(客人)
なぁ音楽家さんよ、本当はザルツブルクから追い出されたんじゃないのか?

(アンナ・マリア)
何のつもりなの?

(モーツァルト)
そうだ、モーツァルト。コロレドに解雇されたって聞いたぞ

(アンナ・マリア)
追い出されたんじゃない、自分から出てきたのよ

(客人)
本当か?

(モーツァルト)
本当だとも!僕はマンハイムで凄いオペラを作曲するんだ!ドイツ語でね!

(客人)
聞いたか?ドイツ語のオペラだとよ!じゃあフランス語のオペラなんかどうだ?中国語のオペラは?
ここじゃ皆んな耳が肥えてる、良いオペラは皆んなイタリア語って決まってるんだよ

(モーツァルト)
耳が肥えてるなんて笑わせるね、あんた達のルールなんか知ったこっちゃないさ

Le Trublion (Wolfgang Amadeus Mozart)

(客人)
ルールってもんを教えてやるよ

(アンナ・マリア)
息子に手を出さないで!

(客人達)
落ち着け!落ち着け!
警察だ!

【宿屋の外】
(フリドリン)
ブラボー!

(アンナ・マリア)
何?

(フリドリン)
ブラボーと言ったんだ

(アンナ・マリア)
あなた誰なの?

(フリドリン)
私はフリドリン・ウェーバーだ。この町の劇場で写譜家をやってる。
この辺じゃおたくの息子さんが話題になってましてね。
その若い才能は将来有望だ。私に援助させてほしい

(アンナ・マリア)
援助?いったいどんな?

(フリドリン)
そうだな、楽譜の写譜をすべて無料で請け負おう。そして写した楽譜を配布するんだ

(モーツァルト)
ありがとうございます!なんとお礼したら良いか!

(フリドリン)
どうぞ私の家へお越し下さい。もちろんお母さんも。ココアをご用意しましょう。
私の家族をご紹介できるなんて光栄です。ゆっくり仕事の話もできますし

(アンナ・マリア)
それはありがたいですけど...

(フリドリン)
家は教会の裏にあります。お待ちしてますよ、お母さん

(アンナ・マリア)
ヴォルフガング、あの人なんだか信用できないわ

(モーツァルト)
なんでよ!

(アンナ・マリア)
だって、話が上手すぎるもの

(セシリア)
ねえ、どうなったの?

(フリドリン)
ダーリン、ちゃんと言われた通りにやったよ

(セシリア)
うちに来るの?承諾した?

(フリドリン)
ああ来るとも!

(セシリア)
...母親も一緒?

(フリドリン)
まあね。

(セシリア)
母親は連れてこないでって言ったでしょ!計画が台無しになる!本当頼りにならないんだから!

(フリドリン)
奴を丸め込むのは君の役目だろ?

(セシリア)
その通り、もう準備はできてるわ
これ見て

(フリドリン)
招待状か!良い匂いだな

(セシリア)
成功の香りの香水よ!
うちの子が宮廷の演奏会に一週間も出演するの!
「アロイジア・ウェーバープリマドンナ」!

(フリドリン)
そりゃいい!だがまずはモーツァルトを説得しなきゃな。アロイジアのために作曲してもらわないと

(セシリア)
そうね、私達流の歓迎の準備よ!
さあ皆んな!

ウェーバー宅】
(フリドリン)
ようこそ!ようこそ!さぁ入って!
こちらは妻のセシリア

(セシリア)
はじめまして、奥様

(モーツァルト)
...はじめまして!

(セシリア)
あら、そちらはかの有名なモーツァルト!主人からお噂はかねがね。
こちらはうちの娘たち。ゾフィー、ヨゼーファ、それからコンスタンツェ
ほらコンスタンツェ、ご挨拶は!
...ゆっくりくつろいでくださいね。
ゾフィー

(ゾフィー)
はいお母さん!

(セシリア)
ココアをお淹れして!

(アンナ・マリア)
アンナ・マリアです

(セシリア)
アンナ・マリアさんね!
あなたはヴォルフガングね!紅茶はいかが?

(モーツァルト)
いえ、けっこうです

(セシリア)
コンスタンツェ、もうそのくだらない歌はやめてちょうだい!

(アンナ・マリア)
いいえ、素敵な歌ですわ

(セシリア)
やめなさいコンスタンツェ!
...さぁヴォルフガング、あなたは神童だったんですって?
聞いたわよ、両手を後ろに縛られたままでピアノを弾けたとか
モーツァルト、笑う〉

(ゾフィー)
すごい!

(フリドリン)
違うって、目隠しをしたままだよ

(モーツァルト)
奥さん、僕は音楽家だ、手品師じゃない

Bim bam boum (Aloysia)

(セシリア)
ヴォルフガング、うちの娘を紹介するわね、アロイジアよ!

(アロイジア)
父さんに話を聞いたときからずっと会ってみたかったの!

(モーツァルト)
本当に素晴らしい歌でした!その洗練された美しい歌声!

(アロイジア)
そんなに褒めないで、まだまだ学ばなきゃならないことが沢山あるの

(フリドリン)
その通りなんです、アロイジアは宮廷から一週間の演奏会に招かれてまして

(セシリア)
でも曲のレパートリーが少ないんです

(アロイジア)
ねえ、私にレッスンしてくれない?

(モーツァルト)
もちろん!
君のためなら世界一のシンフォニーを書くよ!

(アンナ・マリア)
ヴォルフガング!

(アロイジア)
お父さん、モーツァルトも一緒に演奏会に来れない?

(フリドリン)
そうだな!それならお前の歌も聴いてもらえるし!

(セシリア)
良いアイデアね!どう?奥様

(アンナ・マリア)
でも今はマンハイムを離れられないわ
宮廷での仕事やオペラの作曲はどうするの?

(モーツァルト)
今すぐレッスンをはじめよう!

(アンナ・マリア)
私は宿に帰ります。
お父さんに手紙でこのことを伝えます。お父さんは何て言うでしょうね。触らないで!

(アロイジア)
コンスタンツェ、ちょっとどいてくれない?

(コンスタンツェ)
あら、ごめんなさい

(セシリア)
もう、なんて素晴らしい子なの!もう彼を魅了しちゃってる

(コンスタンツェ)
ああ本当、本当素晴らしい子だよね

(セシリア)
あんたは黙ってなさい!

(フリドリン)
でも彼はちょっと変わってないか?

(セシリア)
そう?きっと緊張してるだけよ。
別にアロイジアと結婚してって頼んだわけじゃないんだから

Ah! Vous dirais-je maman (Constanze)

【アンナ・マリアの宿】
(アンナ・マリア)
愛する夫へ
もう希望は薄れました。宮廷の扉は私達の前で閉ざされ、ヴォルフガングはアロイジア・ウェーバーの虜になってしまいました。もう彼の頭にはアロイジアのことしかありません。
お願いします、もう一度旅の目的を思い出すよう、ヴォルフガングに手紙を書いてください。

(モーツァルト)
母さん!

(アンナ・マリア)
あら、ヴォルフガング。話したいことがあるの

(モーツァルト)
今日はずっとリハーサルだったんだ。アロイジアは本当に素晴らしいよ。
あんな歌声は今まで聴いたことがない

(アンナ・マリア)
ヴォルフガング、話を聞いて!

(モーツァルト)
ああ、聞いてるよ。
明日にはここを出発する!女王に会うんだ!それに
...どうしたの?

(アンナ・マリア)
もうマンハイムに用はないってことね
オペラは断られたし、仕事の契約もできなかった。

(モーツァルト)
断られたの?
...でもアロイジアこそ僕の未来だ!
彼女は僕のミューズで、僕は彼女の詩人なんだ!

(アンナ・マリア)
とうとう自分を見失ったのね

(モーツァルト)
アロイジアのためのアリアを書いたんだ

【宮廷】
(女王)
ブラボー!なんて素晴らしい歌声。2人は最高のペアね、そう思わない?

(セシリア)
何を待ってるの?早く話しに行って!

(フリドリン)
待ってくれセシリア。こんな上流階級の人達の前ではとても...

(女王)
皆さん、演奏の後にはダンスをしましょう。ダンスの時間よ

(フリドリン)
陛下、私はアロイジア・ウェーバーの父親です。どうか推薦をいただきたく...

(女王)
モーツァルトね、こちらに来ていただけない?

(フリドリン)
陛下、聞いていただけませんか、彼女の夢はオペラでして、どうか援助をいただきたく...

(女王)
あなたはドイツ語でオペラを書いているんだとか
教えてくれない?どんな話なの?私のラブストーリー?

(フリドリン)
陛下、どうかお話を...

(セシリア)
せっかくのチャンスだったのに!本当に下手ね!

(フリドリン)
だって話を聞いてくれないんだ!

(セシリア)
うるさいわね、この役立たず!
まったく娘達のためになることの一つもできないんだから!

(フリドリン)
もう!

(セシリア)
フリドリン!戻ってきなさい!フリドリン!

(アロイジア)
私のこと祝ってくれないの?

(コンスタンツェ)
どうするべきか分からなくて

(アロイジア)
どうしたの?

(コンスタンツェ)
2人を見てると落ち着いていられない!
お姉ちゃんは歌姫みたいに堂々としてて、ヴォルフガングは完全に虜になっちゃってるし

(アロイジア)
嫉妬してるの?

(コンスタンツェ)
嫉妬?私が?

(アロイジア)
嫉妬してるでしょ。ヴォルフガングのこと好きなのね

(コンスタンツェ)
私はお姉ちゃんみたいに彼のことをもて遊んでないってだけ!

(アロイジア)
別にもて遊んでるわけじゃない!
一緒に仕事してるだけ!

(コンスタンツェ)
彼のこと利用してるでしょ!
彼は純粋な人なの、彼の音楽みたいに。
でもあんたは違う!

Six pieds sous terre (Constanze and Aloysia)

(モーツァルト)
大成功だよ!

(コンスタンツェ)
ヴォルフガング!おめでとう!

(モーツァルト)
ありがとう!

(セシリア)
教えてちょうだい!

(モーツァルト)
愛しいアロイジア、女王陛下が君の契約を更新してくれたよ
それくらい君の歌声は美しいってことさ!
僕の思った通りだ!

(アロイジア)
ありがとうヴォルフガング、心から感謝するわ

(セシリア)
ねえ、愛よ!簡単なもんでしょ!

(コンスタンツェ)
ヴォルフガング!ヴォルフガング!

(モーツァルト)
母さん、どうしたの?

(アンナ・マリア)
はい、あなたによ

(モーツァルト)
僕に?

(アンナ・マリア)
お父さんからの手紙よ。良い知らせかしら?

J'accuse mon père (Leopold)

(レオポルト)
ヴォルフガング、自分を見失うんじゃない。アロイジアのことは忘れろ。
パリへ旅立つのだ、パリでなら名声と成功を手にできる。
お前の才能を世に知らしめるのだ!
それまでアロイジアの元に戻ってはいけない。ヴォルフガング、私に従うのだ!

(モーツァルト)
アロイジア...
アロイジア、僕は君と離れなくちゃいけない

(アロイジア)
離れる...?

(モーツァルト)
ああ、明日ここを発つ

(アロイジア)
演奏会はどうするの?

(モーツァルト)
分からない、僕なしでやってくれ。

(セシリア)
ヴォルフガング、どうしたの?

(モーツァルト)
マンハイムを離れてパリに行かなきゃならないんだ。

(セシリア)
でもこんな突然?
アロイジアや私達はどうすればいいの?
奥様、どういうことです?

(モーツァルト)
いや、全て僕の問題だ
アロイジア、長くは待たせないよ、ほんの数ヶ月だ。

(アロイジア)
数ヶ月?そんなに待てない、長すぎるわ!
お願い、行かないで!

(フリドリン)
もう全て台無しだ!

(セシリア)
この馬鹿!

(モーツァルト)
アロイジア、僕の父さんの言う通りだ。
このままじゃ駄目なんだ。パリで立派になって帰ってくる。誓うよ。アロイジア、愛してる。
僕のこと忘れないで、さようなら。

(アロイジア)
あんたなんか大嫌い!大嫌い!

【パリ】
Tatoue-moi (Wolfgang Amadeus Mozart)

(アンナ・マリア)
ヴォルフガング...

(モーツァルト)
母さん?...母さん!母さん!起きて!

(アンナ・マリア)
なんだか具合が悪いわ

(モーツァルト)
医者を呼んでくるよ
助けてください!僕の母さんが!倒れてるんです!
お願いです!お金はありませんが必ず払います!本当です!
助けてください!

(アンナ・マリア)
ヴォルフガング、どこなの?
何も見えないわ...

(モーツァルト)
ここにいるよ、母さん、動かないで。
医者を呼んだからね

(アンナ・マリア)
でもお金はどうするの?
何も持ってないのよ

(モーツァルト)
昨日グリム男爵の知り合いからソナタの作曲を依頼されたんだ。
前払いでお金が入るよ。ね、母さん。

(アンナ・マリア)
嘘をつかないで、ヴォルフガング。
彼は何もしてくれないわ。
パリでも扉は閉ざされてるのよ

(モーツァルト)
そんな!

(アンナ・マリア)
ここを離れなさい。お願い、今すぐこの町を離れて。
家へ帰るのよ。お姉さんをよろしくね。

(モーツァルト)
そんなこと言わないでよ。姉さんにはまた会えるでしょ。

(アンナ・マリア)
それから、お父さんの元に戻って。お父さんはあなたを愛してるわ。お父さんに...

(モーツァルト)
母さん、ねぇ母さん、宿に戻ろう。明日にはザルツブルクに戻るからね、約束だよ、母さん。
ねぇ行こう、母さん!母さん!母さん!離して!お願い... お願い...

La mascarade (Orchestra)

(モーツァルト)
アロイジア!アロイジア!
僕のこと覚えてる?ヴォルフガングだよ。ヴォルフガング・モーツァルト

(アロイジア)
ヴォルフガングなの?

(モーツァルト)
ああ!
また会えて嬉しいよ!たった今パリから戻ってきたところなんだ。

(アロイジア)
何なのその服?今度は使用人にでもなったわけ?
もう音楽には興味ないの?

(モーツァルト)
そんなわけないさ!

(アロイジア)
もしかしてそれがパリでは最先端のファッションってこと?

(モーツァルト)
母さんが死んだんだ。これは喪服だよ。

(アロイジア)
それはごめんなさい。お気の毒に。
でも、本当に酷い服よ、着替えたほうがいいわ。
ちゃんとした服を着なきゃ。髪も整えてね

(モーツァルト)
アロイジア、パリにいる間、君のことばかり考えてたよ。
ほら、君のためにアリアを書いたんだ。

(アロイジア)
この数ヶ月色んなことがあったの。
あなたがいない間にオペラに出演したのよ!

(モーツァルト)
オペラに?

(アロイジア)
そうよ、今は最高の音楽に没頭できてるの。

(モーツァルト)
アロイジア、ずっと君の側にいるよ。君のためならなんだってする。
僕と人生を共にしてほしい。結婚してくれ。

(アロイジア)
結婚?...紹介してなかったわね、こちらはヨーゼフ・ランゲ

(ヨーゼフ)
はじめまして

(アロイジア)
私達、婚約してるの。
ザルツブルクへの旅を楽しんで。もしミュンヘンに来ることがあったら連絡してね。
それから、あなたのお父さんによろしく。

(モーツァルト)
皆んな大嫌いだ。
表だけは誠実なふりをして、何もかも見せかけだ。
僕はザルツブルクへ戻る。
だが諦めないぞ、僕の音楽で道を切り拓いてみせる。天への道を!
僕、ヴォルフガング・アマデウスモーツァルトは、辱められ、裏切られても、あなたを迎え入れます。

Je dors sur des roses (Wolfgang Amadeus Mozart)

【閉幕】